「不死蝶(作品集)」(横溝正史)

知らないうちにひっそりと復刊していました

「不死蝶(作品集)」(横溝正史)
 角川文庫

信州射水を訪れた
ブラジルの大富豪の養女・マリ。
彼女の母は23年前にこの地で
鍾乳洞殺人事件を起こした
女・朋子だという噂が流れる。
その事件は相対する二つの家の
男女の間に起きたものだった。
そして鍾乳洞で
再び殺人事件が…。
「不死蝶」

「わたしは、
妹を二度殺しました」という
不可解な遺書を残して
自殺を図った松代。
彼女の脇の下には
おぞましい人面瘡が現れていた。
松代は命を取り留めるが、
その妹・由紀子が
死体で発見される。
夢遊病の松代を
目撃した金田一は…。
「人面瘡」

前回取り上げたのは
作品としての「不死蝶」です。
実は本書にはもう一篇「人面瘡」
併録されています。
今回はその二篇合わせての
作品集としての「不死蝶」です。
この二篇、「不死蝶」が昭和28年、
「人面瘡」が同24年発表と、
比較的近い時期の作品ですが、
それだけではなく
共通した点が見られます。

共通点①
舞台は信州、金田一は静養気分

二篇とも舞台は
横溝作品馴染みの地・信州です。
そして「不死蝶」では金田一は
半ば静養のつもりで渋々出馬、
「人面瘡」では静養した先で
事件が起きるのです。
金田一あるところに事件あり、の
様相を呈しています。

共通点②
殺人事件の背後に男女のすれ違い

「不死蝶」は前回記したように、
二つの名家の三代に渡る
男女のすれ違いが
事件の背景にあったのですが、
「人面瘡」もまた
男女がすんなりいかないことが
遠因として事件が発生します。
最もそれは横溝作品だけではなく、
ミステリーにはつきものなのですが。

共通点③
他にもいくつかの共通する設定

頬に傷や火傷のある
正体不明の男の登場、
犯人の疑いのある女性に
夢遊病癖があること、
金田一が人情家としての一面を見せる
対応を示していること等、
共通する設定が見られます。

つまり、この二篇は
一緒に収録されるべき二作品なのです。
しかし、角川文庫新版では
「人面瘡」のみ取り上げられ、
4編の短編とともに
新しく編集し直されて
刊行されていました。
この「不死蝶」の方は
もう二度と日の目を見ない運命かと、
この十数年あまり
残念に感じていました。

ところが知らないうちに
ひっそりと復刊していました。
しかも「人面瘡」との
オリジナルカップリングで。
ある大型書店限定で
復刊していたものを、
一般の書店でも販売を開始したのです。
一般書店での刊行は嬉しいのですが、
なぜ最初からそうせず、
特定書店での限定復刊などという、
およそ消費者を無視して
販売店側のみを優遇するような
処置をとるのか。
どこを見て商売しているのか。
出版社の姿勢として
いかがなものかと思わざるを得ません。

2年後の2021年は横溝没後40年、
3年後の2022年は横溝生誕120年の
節目の年が続きます。
そのときには旧角川文庫のすべてが
杉本一文の表紙で復刊していることを
期待(というよりも強く要望)したいと
思います。

※表紙のデザインは実は異なります。
 作者名の位置にご注目。

(2019.12.28)

WILLGARDによるPixabayからの画像

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